毛筆で書く手紙 (暮しの中の書)

本書は「毛筆で手紙を書こう」という実践的なものであり、様々な設定で綺麗な流れるような文字で手紙文例を紹介している。対象は、「書を親しんでいる人」、「巻紙に毛筆で手紙を書いてみたい」という人々。目的は、「正しい書法の現代の実用の書」、「普段着の手紙」の由。一番の基本は「かな」とし、加えて「変体仮名」の解説もある。文例は殆ど行書と言うより草書で書かれる。いずれも華麗で流麗で、誠に素晴らしい。しかしそこに若干の疑問もわいてくる。正直申し上げて、このレベルを目指し練習出来る細筆の達人は少ない。書いてみたいと日頃思っている人が、本書を手にして思うのは、「これは無理だ」という嘆息だ。非常に敷居、バーを高く感じさせる書だ。本書「はじめに」に、毛筆の手紙は「心の伝わり方が違う」、「書き手の心情が細やかに現れる」とある。しかし肝心の受け取った殆どの人は、この草書を読めないだろう。p.114から「病気見舞の手紙」の参考例がいくつかある。字の横に読み方がふられているように、草書、変体仮名のパレードでは理解出来ない筈だ。受取人が老齢者で書をたしなんでいる人だろうが、現代人には一般的ではない。せっかくの「暮らしの中の書」、「実践的な手紙」という貴重なシリーズが世に出た。手紙の基本は行書であろうし、それより楷書に近い行書の文例があってしかるべきだろう。書きたい人が直ぐに書けるような無理のないやさしい書体、受け取った人がきちんと全ての字が読めて分かる書体、これで初めて「暮らしの書」、「実践的な手紙」と言えるのではなかろうか。